津山にもクリスマスがやって来ました。あと、想定外の雪が降って町は大わらわです。
この春に生まれた子猫のコシロは雪を見るのが初めて。
朝目を覚ますと白く変貌していた町並みに目を奪われましたが、肉球のかじかみにたちまち自分を取り戻します。
キレイな景色より、今は生活です。
寒すぎて生きていける気がしません。飲み水すら凍るのです。無事春を迎えることができるのかしら・・・。
ため息をついて顔を上げると、兄弟のコクロがやって来るのが見えました。
コクロは一緒にお母さん猫の元から独立した、3つ子の仲間です。
「今夜、弥生町の空地にサンタがやって来るそうだよ」
サンタクロース。ヒトが話しているのを聞いたことがありますが、それが猫となんの関わりがあるのでしょう。
「ヒトの子供達にプレゼントを配った後、空になったソリに僕らを乗せて行ってくれるんだって」
「フィンランドにかい? 津山より寒いぞ!」
「違うよ。鹿児島だよ。鹿児島の今日の最低気温は2℃。津山より6℃高いぞ」
「鹿児島に行ってどうするんだよ。鹿児島が猫だらけになっちゃうぞ」
「春になったら帰ってくるよ。長距離トラックのゲンさんと契約済みなんだ」
春に帰れると知ってコシロが安堵したのは、リクト君の顔が浮かんだからでした。
同じ町内に住む小学生のリクト君は、何かとコシロのことを気にかけてくれているのです。
コクロはじれったそうに続けました。
「トラ吉兄さんも去年行ったそうだよ、僕らは知らないけどトラ吉兄さんの同期兄弟のキジ吉兄さんという猫は、鹿児島で地元の猫と結婚してあっちに住み着いているそうだ。甥や姪に会えるかもしれないよ」
「よし、行こう!」
コシロは快諾して、出発の準備を始めました・・・。
窓越しに降り積もる雪を眺めながら、僕はリクトにそんな話をしてやった。
朝から雪が降り止まず、コシロが可哀想だと泣き出すので、名作絵本『子うさぎましろのお話(※)』をモチーフに大ホラ話を吹いたのだ。
「キジ吉が居なくなったのは、鹿児島に引っ越したからなんだね?」
ついでに、昨冬に姿を消した猫についても説明しておいた。
僕らの家にこれ以上猫を迎えられないのにも、理由がある。津山の全ての家に、猫を迎えられるわけでももちろんない。
このままで良いわけではないけれど、ただ今はリクトには悲しい思いをさせたくない。この話が兄からのささやかなクリスマスプレゼントなのかもしれない。
リクトはうつむいて、肩を震わせながら小さく呟いた。
「契約してるなら、行きもゲンさんのトラックで行けばよくない・・・?」
※『子うさぎましろのお話』作:佐々木たづ 絵:三好碩也 ポプラ社の名作絵本